東京地方裁判所 昭和45年(ワ)3141号 判決
原告
安田火災海上保険株式会社
被告
須貝正
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告は原告に対し一六九万九七二四円およびこれに対する昭和四五年四月九日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨の判決を求める。
第三、請求の原因
一、(事故の発生)
訴外大山繁は、次の交通事故によつて傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四二年四月一三日
(二) 発生地 東京都杉並区下井草四丁目一八番一号交差点
(三) 加害者(イ) 普通乗用車(多摩五き一五九四号)
(訴外境交通有限会社保有)
(四) 加害車(ロ) 普通乗用車(練馬五き二〇一二号)
(被告保有)
(五) 態様 (イ)(ロ)車両の出合い頭の衝突
二、(大山繁と境交通・被告との裁判上の和解の成立)
大山は、境交通と被告とを共同被告として東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第八二九一号損害賠償請求事件を提起し、昭和四四年一〇月三一日大山と被告は境交通に何らの相談なく、左記(一)の裁判上の和解を成立させた。そこで、境交通もやむなく昭和四四年一二月二六日大山と左記(二)の裁判上の和解を成立させた。
(一) 大山と被告
(イ) 損害賠償債務総額 一五〇万円
(ロ) 支払方法 昭和四四年一一月末日限り二〇万円を支払い、同年一二月以降翌年七月まで毎月末日限り一〇万円宛支払つたときは残金五〇万円は放棄する。
(二) 大山と境交通
(イ) 損害賠償債務総額 三四三万四五四九円
(ロ) 支払方法 既払分一七三万四八一一円を除き、残金一六九万九七三四円を昭和四五年一月三一日限り支払う。
三、(境交通の弁済)
境交通は、右一六九万九七三四円を昭和四五年二月二日大山に支払つた。
四、(前記交通事故の過失割合)
前記交通事故現場は、見透しが悪く、ほぼ同幅員で一時停止等の規制のない交差点である。加害車(イ)は同交差点への先入車であり、加害車(ロ)は徐行義務を怠つているのであるから、両車両の過失割合は、加害車(イ)三割、加害車(ロ)七割である。
五、(境交通の被告への求償債権)
前記第二項に記述した如く、大山に対する損害賠償債務は、境交通と被告と合計して四九三万四五四九円である。
ところで、前項の如き割合であるから、境交通の負担部分は四九三万四五四九円の三割に当る一四八万〇三六四円、被告の負担部分は七割に当る三四五万四一八五円である。それにも拘らず、境交通は二四三万四五四九円を支払つたのであるから、被告に対し一九五万四一八二円の求償債権を取得した。
六、(原告と境交通との間の自動車損害賠償責任保険契約)
原告は、境交通との間に昭和四一年一二月二日、保険期間は昭和四一年一二月二日から昭和四二年一二月二日迄とし、対人賠償損害賠償保険金三〇〇万円とする自動車保険契約(証券番号第一八一六九九号)を締結した。
七、(求償権の代位)
原告は境交通へ昭和四五年二月二日一六九万九七三四円を支払い、同日自動車損害賠償責任保険普通約款第一六条により右支払限度額において右求償債権を代位取得した。
八、(結論)
よつて、原告は被告に対し金一六九万九七三四円および右金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四五年四月九日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第四被告の答弁
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、請求原因第二項のうち、大山が境交通と被告とを共同被告として訴(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第八二九一号)を提起したことおよび昭和四四年一〇月三一日大山と被告との間に裁判上の和解が成立したことは認めるが、和解の内容は争う。大山・被告間の和解の内容は、被告は大山に対し一五〇万円の支払義務があることを認め、被告が大山に対し昭和四四年一一月末日限り二〇万円を、同月一二日から昭和四五年七月まで毎月末日限り一〇万円宛支払つたときは残金五〇万円を免除し、大山はその余の請求を放棄する、というのであつた。
大山と境交通との間の和解は不知。
三、請求原因第三項は不知。
四、請求原因第四項は否認。
五、請求原因第五項は争う。
六、請求原因第六項は不知。
七、請求原因第七項は不知。
第五証拠関係「略」
理由
一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。
二、請求原因第二項のうち、大山が境交通と被告とを共同被告として訴を提起したことおよび昭和四四年一〇月三一日大山と被告との間に裁判上の和解が成立したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、その和解は、「被告は大山に対し一五〇万円の支払義務があることを認め、被告が大山に対し昭和四四年一一月末日限り二〇万円を支払い、同年一二月以降翌年七月まで毎月末日限り一〇万円宛支払つたときは残額五〇万円を免除し、大山はその余の請求を放棄する」旨の内容であつたことが認められ、〔証拠略〕によれば、昭和四四年一二月二六日大山と境交通との間に原告主張(二)の和解が成立したことが認められる。
ところで、二名以上の者の過失によつて交通事故が発生した場合における共同不法行為者の被害者に対する損害賠償債務は、不真正連帯債務であつて、その最終的負担割合は過失の割合に応じて分担せしめるべきである。
三、(過失割合)
そこで、被告と境交通の過失割合について判断する。原本の存在および〔証拠略〕によれば、本件事故現場附近の道路状況は、南北に通ずる幅員五・二〇米の道路と東西に通ずる幅員四・九米の道路とが直角に交差しており、いずれも歩車道の区別のないアスファルト道路で、交差点南西隔は高さ二・〇米のブロツク塀のため北進して交差点へ進入する車と東進して交差点へ進入する車との相互の見透しは悪い状態であること、北進する境交通保有の加害車(イ)の左側助手席ドア部分と東進する被告保有の加害車(ロ)の前部とが衝突しており、衝突地点は交差点南端からは二・六五米、西端からは一・八五米であるが、加害車(ロ)はスリツプ痕が右三・七〇米、左三・二五米あるのに対し加害車(イ)はスリツプ痕がないことおよび両車両の停車位置が加害車(ロ)はほぼ北向に方向を変えて衝突地点から四・七五米の地点、加害車(イ)は北北東六・八米の地点であることに鑑みれば、加害車(ロ)は減速して交差点に進入したのに加害車(イ)は減速せずに進入したことが認められ、したがつて、加害車(イ)と加害車(ロ)とは殆ど同時に交差点に進入したものと認められる。
以上の諸事実によれば、加害車(イ)の運転者野呂六郎には徐行義務違反、前方および左方不注視の違反があり、加害車(ロ)の運転者飯島登には徐行義務違反があり、しかも加害車(ロ)には左方優先権のあることに鑑みれば、両者の過失割合は飯島三対野呂七を以て相当と認める。
四、(求償権の成否)
前記大山・被告間の和解および大山・境交通間の和解金額は、一五〇万円対三四三万四五四九円であつて、右の飯島対野呂の過失割合に合致する。したがつて、右の二箇の裁判上の和解は過失割合に対応して金額が決定されているものと認められ、境交通が負担部分を超えた金額を支払つたものとは認められないから、同会社に求償権が成立する余地はない。
五、(結論)
よつてその余の点について判断するまでもなく、原告の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 篠田省二)